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2000.12.16.
銀行決済も終了し、越智工務店さんのわずかの精算金を残して今回の契約は今日の引渡しにて、無事完了した。
大手メーカーでは、車があたったときのようなどでかいキーを引き渡したりするそうだが、今日引き渡された紅白のリボンで結ばれた小さな3つのキーは私には、それらのどでかいニセモノより、はるかに大きく重く感じられた。
1Fの薄暗いスタジオで、今回仕事用に特注したMr.Jimmy
Talimのクールなデスクの上が引き渡し会場となった。
引渡し書類に捺印し、晴れて私たちはこの家のオーナーとなれた。
越智社長から、祝辞を頂き、奥様からはお向かいの花屋さんでとても美しい植栽を選んでいただき、お祝いとしていただく。(奥様は植物にはなかなか目が利くようで、半時間ほど店の中で吟味されていた)
この後、16日.17日と一時的に設計者である庄司氏にHOUSE99.99をお貸しし、完成見学会となった。
たくさんの建築関係者の方、学生さんご近所の方などご来場頂き、興味を持っていただいた。特に、外観が閉鎖的にもかかわらず2F以上の階の光の取り入れ方に関心が集まった。
この前日まで、実は私はとても戸惑っていた。家内と数日前些細なことで、喧嘩になってしまいとても気まずい気分を引きずっていた。
はたして、ここへ笑顔で引っ越して来れるのか.....
この見学会の最中、皆さんのいろいろなお話を伺いつつ、もう一度この建て物をじっくり見渡した。ディテールはいわいる現代建築で、ちょっとクールな印象に見えるかもしれない。しかし、設計者の意図したとおり、ここにはたくさんの光が優しく降りそそいでいる。
正面の階段棟の先には、この建て物で一番外から見えやすい位置に一枚の板切れで作られたカウンターが、2脚のチェアとともに存在している。明かにここは、2人がいなければならない空間なのである。
ここは、まさしく私たち夫婦の笑顔を必要としている。
1階に下りると、引渡し式の際に掲揚させていただいたSPECIAL THANKSのスタッフ銘版が目にはいる。実に98名にも上る方が、私たちがここで笑顔で生活するために、約1年もの歳月を費やして尽力頂いたのだ。
いてもたってもいられなかった。携帯電話を持たない私は、見学会を抜け出し、近くの公衆電話に走っていた。その朝謝ってくれた店で働いている家内に電話をして、とにかく私も謝った。
家内も苦しかったであろうが、帰宅後食事の前に今日出会ったたくさんの方の話や引渡しのことを話した。 なぜか、泣けてきた。 こんなにたくさんの方の気持ちのこもった建て物を、こんな些細なことでぶち壊すわけには行かない、もう一度がんばろう!” 家内も泣いていた。
水道の回栓検査の為に、田畠さんにお預けしたキー一つを除いた残りの2つのキーのうちの一つを家内に手渡した。
「あのカウンターの椅子の一つは、あなたが座る為に存在する。そして、おおきな2Fのカウンターキッチンは、あなたが料理をするのを待っている。庄司さんもスコーンを食べに来るのを楽しみにしているよ。あの家にはあなたがいなければ、成立しないんだ。」
住宅雑誌に出ているインタビューに”温かい家庭を作りたくて、木の家にしました。”というようなコメントをよく目にする。しかし、木のような自然のものさえ使えば、温かい家庭になるという、日本人の幻想にもおもえるこういった考え方は、住宅メーカーの格好の広告キャッチコピーになるだけのような気がする。
実は、2×4の輸入住宅であろうと、自然素材をふんだんに使った家であろうと、今回のような鉄とコンクリートの家であっても、住むべき人間によって暖かい家にも冷たい家にも変貌してしまう。
家事体は、単なる器でしかない。しかし、生き方や思想など最もよくわかってしまう、ある意味リトマス試験紙のようなものかもしれない。
見学会の段階では、まだ数点の新規購入の家具以外は何も入っていないいわば、まだ生まれたての赤ちゃん状態である。
この真っ白い空間が、暖かい空気でみたされるか、冷たい空気がふきすさむかは、私たちの今後の生き方にかかってくる。家を建てたことによって、この大きな課題をつきつけられているのかもしれない。
今日の日までのたくさんの人の気持ちの記録の残ったこのWEBSITEを、プロバイダーが存続する限り、公開しておこうと思う。
いつか、また自分が迷ったときにこのサイトにアクセスすることで、原点を思い出させてくれることになるだろう。
最後に、設計から竣工まで安い設計料にもかかわらず長い間お世話になった庄司氏、難しい建て物であるにもかかわらず、すばらしい施工・管理をやり遂げてくださった、越智工務店以下ご一同様、この土地にめぐり合ってからいろいろ融資などで面倒をおかけした住宅開発 永井支店長以下ご一同様
そして、私のわがままを許容してくれた家内に、この場を借りて
「どうもありがとうございました」
30年後、ローンがおわるころ、甲南山手のお花屋さんの向かいからのぞいてみてほしい。カフェカウンターに年寄り夫婦が座ってお茶をすすっていることであろう。
見学会の後、庄司氏の旧友の皆さんと遅くまで談笑していたとき、お向かいのお花屋さんがおいしい紅茶とお菓子を差し入れしてくださった。
どうやら、私たちはこの美しい建て物とともに、最近希薄になりつつある人の縁や暖かさを頂だいたのかもしれない。
2000.12.17 竹田憲司
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